封鎖中のミラノから イズミふうこの日記

イタリア語と日本語(時々英語)で得る情報は、どれだけ同じなのか?どれだけズレているのか?

伊アビガン試用は貴重な資源・時間・命の大きな賭け *インフォデミック(infodemic)とSNS

(タイトル *インフォデミック(infodemic)とは、「根拠のない情報の広範囲にわたる拡散、それに伴う社会混乱。information+pandemic。今回の新型コロナウィルスについてWHOがこれはパンデミックでなくてインフォデミックだ、と指摘。)

 

今日も窓の外の救急車のサイレンを聞くなか、夫は週に1度の買い出しへ。私は子が昼寝している隙にブログを書いています。

 

(イタリアでは現在、一人で散歩したりジョギングすることすら禁止で、買い物は一家に一人だけ、という徹底した外出禁止が続いています。)

 

さて、先日、夫(イタリア人)と「新型コロナウィルスの治療薬としてアビガン試用にやっと踏み切ったイタリアについてどう思うか」という話をしていました。

 

過去記事を読むとわかるのですが、そもそもイタリアでアビガンが注目され始めたのは、東京に旅行していたイタリア人男性がソーシャルメディアにアップした動画がきっかけです。

(過去記事:https://fukononikki.hatenablog.com/entry/avigan この記事に載っている原文のリンク先で、そのきっかけとなった動画も見れます。)

 

このビデオで男性は

「イタリア中はゴーストタウンなのに、東京にはこんなに人が街に溢れている。なぜなら日本には治療薬のアビガンがあるからなんだ!イタリアでは何人も死んでいるのに!我々にはなぜこの薬がないのか、これは大手製薬会社の陰謀だ!」

というような、イタリア人的かつソーシャルメディア的な誇張した煽る表現をしています。これがネットで話題になり、政府は試用に踏み切ったわけです。

 

私:「でも、本当にアビガンが効いて皆が助かるなら、それを知るきっかけになったこの動画のおかげでもあるんじゃないの?」

夫:「動画のおかげ、とは言えないよ。もし、薬が効かなかったり、副作用があったりしたらどうなる? 」

私:「でもイタリアは医療崩壊して死者出まくりで、もう打つ手がないじゃん。失うものはないし、やれることはやった方がいいんだから、やっぱり良いことじゃないの?」

 

夫:「この薬を試用するということは、例えば従来のやり方に使っていたリソースを割くということだよ。ちょっとずつだけど地道にベッドの数や呼吸器を増やしていく、劇的な効果はないけど、確実な方法。それができるはずだった時間や資源を割いて、アビガンを使ってみるというのはコストのかかる賭けなんだ。

 こういう重大なことは、ネット情報に煽られた一般市民が政府にプレッシャーをかけて実現させることじゃないと思う。煽る側は責任をとる必要もない。」

 

ああああ、なるほど!確かにーーー!

 

この記事を訳した時、(https://fukononikki.hatenablog.com/entry/avigan)、アビガン試用に対して反対していたというウィルス学者のブリオーニ氏の言葉が心に残りました。

「 新しい情報は保健省から来るものだ。ソーシャルメディアやYouTubeからではない。」

ってやつ。

 

その時の私は「頭の固い保守的なお爺さんは、本当に困るわ」みたいな感じで思ったわけですが、確かに「確実に効く従来の方法」を実行できる時間、労力、資源を「結果はわからない」賭けに使うわけで、人の命がかかっているのだからブリオーニ氏の言葉はもっともなのです。それがどんなに「効くらしいよ」という評判があっても、現時点でのデータは限られているのですから。

 

昨日、テレビで新型コロナウィルス患者を治療している医師が

「中国では回復患者の血しょうを他の患者に投与することで治療したケースがあるんだ。効果があるんだ。」

と言っており、インタビュアーが

「なぜイタリアではやらないのですか?」

と聞くと

「それは僕でなくて、治療法の許可を出すトップの人に言ってくれよ」

と疲れ果てた顔で呟いていました。

 

現場もトップもそれぞれが正しく、そして必死です。